事実だけでなく「表現」で震災を伝える

「想定外」ではありませんでした

リアスアーク5-1
展示された明治三陸大津波の図版

明治時代の『風俗画報』という雑誌が、1896(明治29)年の三陸大津波に関してしっかりと記録物を残していました。宮城県沖地震の周期が大体33年くらいで、だとすると1978年の地震からもう間もない、最悪の場合10mを超える津波が来るかもしれない、そういうことが言われていた2006年、『風俗画報』の現物を大船渡市立博物館からお借りしてスキャンをかけた75点ほどの図版として展示、さらに津波の体験談や、すべて被害の場所が特定できる状態で残っている貴重な資料を、『描かれた惨状~風俗画報に見る三陸大海嘯の実態~』という企画展で地域の皆さんに紹介しました。

「これは大変な注目を浴びるぞ」という予想を裏切り、入場者数は振るいませんでした。地域の人たちの関心の薄さに驚いた私は、明治三陸大津波を題材にした小説を書いて警鐘を鳴らそうと試みましたが、それも多少話題になった程度。そしてあの3月11日を迎えるわけです。

当日私はこの美術館の収蔵庫で仕事をしていて、地震が来て屋上に上がり実際に津波を見たとき思わず、「だから言ったのに」と漏らしました。そうしたら今度は「未曾有」とか「想定外」とかいう言葉が使われ出して、でも私としては過去にそういうことが起きていたのは知っていたから「未曾有」じゃない、それを基にかなり具体的に「想定」できていたことを何とか伝えようともしてきました。友人たちは、企画展『描かれた惨状』を観ていたおかげで、「6mの津波が来る」と聞いた瞬間に展示されていた絵が頭に浮かび、「あれが起きるんだな」と、すぐにぜんぶ投げ出してとにかく避難したそうです。

6mの津波が来ると聞いた時「ここにいれば大丈夫だ」と二階に残って流された人たちが相当いたと聞いています。6mというのは二階建ての屋根の頂点くらい。つまり、「6mの津波が来る」と言われて二階にいたらダメなんです。だけど、「家の天井って何mくらいですか?」って聞かれてすぐにピンと来る人はあまりいない、高さ何mとか深さ何mとかいう数字は、感覚として体で理解できないんです。ただ単に「津波が来るから逃げなさい」と言われても人は逃げません。なぜか?命の危機を感じないからです。一番大事なのは、死ぬかもしれないと思うことです。そう思わせなければ、いくらデータを並べても意味がありません。

事実だけでなく「表現」で震災を伝える

sunanoshiro_hyoshi+s
山内さんは明治三陸大津波を題材に小説『砂の城』(近代文芸社)も執筆。2008年の時点で震災の「表現」に取り組んでいた

今回の震災についてこれだけ多くのメディアが記録を取ったから確実に後世に伝わるだろうと言われると、「つぎの震災に備える」という点では疑問です。明治三陸大津波の絵で大事なのは、これは何も詳細なスケッチをしているわけじゃないということです。この絵を描いた報道画家は、現場に入って始めたスケッチを、「こんなもので何が伝わるんだ」と思ってやめたそうです。その代わりに、自分が実際に見て聞いて感じたことを、スケッチではなくて「表現」として組み立てていった。

私自身、今回、津波が引いたあとの現場で泣きながら撮った写真を、帰ってきてパソコンで見てがっかりしました。「何も写ってないじゃないか」と。自分が見たのはこんなものじゃない、どうしたらこれを伝えられるんだろうかと考えたとき、やっぱりそれは言葉で補っていくしかなくて、そうすることでその言葉から絵を描くこともできるようになります。そういうことをこれからやっていなかければいけないだろうと思うんです。

事実を伝えることが学術的に大切なことは分かっています。だけど人の命を救うためには、事実をただ伝えるだけじゃダメなのではないかと。「その数字とかデータは自分には関係ない」って思われてしまったらそこでもう終わりです。「関係ないなんてことはない」「あなたのことなんだ」ということをいかに感じさせるか。50年後、100年後、どんな時代のどんな地域のどんな人間にも共有できる普遍的な悲しみとか喜びとか恐怖とか、そういったところで、今回の震災の情報をフィクションでもいいから紡ぎ直すことが必要なのではないでしょうか。

現実が必ずしもリアルではないということ。我々がリアルと呼んでいるものは、あくまでも自分にとってのリアルであって、それ以外のものはリアルではないんです。だからそれはもはやアートとか表現者の領域であって、科学者とかデータの領域ではないと思っています。

これから先、今回の震災の情報をどのように「表現」という形と組み合わせていくか。当館で来年度に開催を計画している開館20周年記念展では、“震災と表現”というテーマで、「ただし現場写真や現物等は用いない」という縛りの中、作家の方たちが見て聞いて感じたそれぞれの震災を「表現」してもらおうと考えています。

 (聞き手=中川哲雄)


リアス・アーク美術館

宮城県気仙沼市赤岩牧沢138-5
Tel: 0226-24-1611
http://www.riasark.com

Share this: