岩手県釜石市の伝統神楽

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20年に一度、伊勢神宮に奉納する岩手県釜石市の伝統神楽

岩手県の釜石で、元禄12(1699)年からの歴史を持つ南部藩壽松院年行司支配太神楽(じゅしょういんねんぎょうじしはいだいかぐら)。20年に一度の伊勢神宮式年遷宮でも、県を代表して100年前から奉納されてきたこの神楽を、釜石市只越町の菊池邦彦さんは前回、つまり20年前にも奉納した。小学生の時から、毎年10月の釜石まつりなどで地元の神社に奉納するようになった菊池さん。しかし式年遷宮での奉納は、選りすぐりの20人ほどしか参加できない特別な場だ。前回のときはまだ30歳になったばかりだった菊池さんは、メンバーの中で一番若いほうだった。伊勢神宮内宮の参集殿に入った瞬間すーっと変わった空気を、菊池さんは今でもはっきり覚えている。

次の式年遷宮まであと3年となり、「今度は誰が行くべか」と少しずつ話題に上りだしていた2011年の3月11日、只越町は津波に呑まれた。太鼓や装束など神楽の道具は、そのほとんどが海に消えた。菊池さんは、毎年神楽を奉納していた神社で夜を明かした。流された菊池さんの家から、なぜか神楽で羽織る半纏だけが無事見つかった。

瓦礫だらけになった町。だけどお祭りだけは「やりたい」というより「やらないわけにはいかない」。元々、盆正月にも帰ってこない町の出身者がなぜかお祭りになると集まってくる土地柄。「死んだやつもやれって言ってるよ」「できることはこれまでどおりやろうや」……。

その年の10月の釜石まつりは、人手もないし装束も山車も太鼓も旗もなかったけれど、とにかくやった。翌2012年10月の釜石まつりでは、震災前の賑わいがだいぶ戻ってきた。「特にお年寄りたちはすっかり落ち込んで体調を崩してしまう人もいて、笛や太鼓の音がみんなの元気を取り戻してくれるんです」と、菊池さんの仲間の今入(いまいり)義章さんは語る。

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改めてあの日のことを話し合う、左から今入さん、菊池さん、笹山さん

そしていよいよ今年の10月に迫った式年遷宮での奉納。踊り手3人、笛2人、太鼓2人、お囃子6人、神楽を舞うのに最低限の13人だけでも何とかして伊勢に……! 経済や雇用の回復は未だ遠く、式年遷宮に向けて地元だけでの費用捻出が厳しい状況、だが奉納への熱意は震災以前にも増して強い。各方面に支援金などの協力を呼びかけながら懸命に実現の道を探るのは、今回みんなの中心になって切り盛りする笹山政幸さん。「20年に一度の伊勢神宮での神楽は地域の誇りであって再生の希望。絶対に途切れさせたりできません」。

(中川哲雄)

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